平成16(受)380 最高裁第一小法廷 平成19年(2007年) 1月18日
本記事の参照:裁判所ウェブサイト https://www.courts.go.jp/
主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
被上告人らの請求をいずれも棄却する。
訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
理由
kuma
文中の下線(アンダーライン)は、
判決文に下線が引いてある部分です。
上告代理人石嵜信憲ほかの上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
kuma
事実確認があります。
(1) 上告人は,農業協同組合法に基づき,組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付け,組合員の貯金又は定期積金の受入れ等を目的として設立された信用農業協同組合である。
(2) 上告人は,就業規則13条において,「従業員は満60才をもって定年とし,定年に達した日の属する事業年度末(毎年3月31日)をもって退職とする。なお,4月1日生れの者はその前日の3月31日を以て退職する。」,「前項の規
定にかかわらず,本人の希望により定年前の年令で退職する者は,選択定年制実施要項の規定により定年扱いとし,特別処置を講ずる。」とした上,「選択定年制実施要項」(以下「本件要項」という。)を定めて,選択定年制(以下「本件選択定年制」という。)を設けていた。
本件要項の規定は,次のとおりである。
1条「就業規則第13条による定年以前に定年扱いによる退職を選択する職員に対し,この要項を適用する。」
2条「対象者は,退職時点において48才以上の職員でかつ勤続年数が15年以上の職員のうち,第4条の手続きによりこの制度による退職を選択し,この組合が認めたものとする。」
3条「この制度による退職は,定年扱いとし,別表の割増退職金を支給する。」
4条「この制度による退職を希望する職員は,退職を希望する6か月前までに,組合長に申し出るものとし,事業年度末をもって退職とする。」
上告人が本件選択定年制を設けた趣旨は,組織の活性化,従業員の転身の支援及び経費の削減にあった。本件選択定年制は,事業上失うことのできない人材の流出をとどめることができるようにすることなどを考慮して,上告人の承認を必要とすることとされたものである。
(3) 被上告人X1は,昭和46年5月17日上告人に雇用された。同被上告人は,平成13年7月18日,上告人に対し,本件選択定年制により,51歳に達していることとなる同14年3月31日付けで退職することを希望する旨の申出をした。
(4) 被上告人X2は,昭和48年4月1日上告人に雇用された。同被上告人は,平成13年9月11日,上告人に対し,本件選択定年制により,50歳に達していることとなる同14年3月31日付けで退職することを希望する旨の申出をした。
(5) 上告人は,平成13年7月,神奈川県から資産査定状況の検査において自己資本比率の低下等を指摘されて指導を受け,他の信用農業協同組合との合併の道を探ったが,同年8月,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったと判断するに至り,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐため,本件選択定年制を廃止するとの方針を立てた。
上告人は,平成13年9月4日から7日にかけて,本件選択定年制により同14年3月末日限り退職することを申し出る資格を有する者全員に対し,「他の信用農業協同組合との合併が避けられない事態となっており,合併を実現させるためには,これ以上財務状況を悪化させないことが必要である。そのために本件選択定年制は廃止せざるを得ない。廃止することとした以上,本件選択定年制による退職の申出に対しては,既にされているものについても今後されるものについても承認をしないこととする。」という趣旨の説明をし,大方の賛同を得た。
その時には,被上告人X1ほか3名が本件選択定年制による退職の申出をしていた。また,この後に,被上告人X2ほか2名が本件選択定年制による退職の申出をした。
上告人は,平成13年9月18日の理事会において,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐため,本件選択定年制による退職の申出に対しては,既にされているものについても今後されるものについても承認をしないこと,本件選択定年制を廃止することを決定した。上告人は,被上告人らほか5名に対し,同月27日,本件選択定年制による退職の申出につき承認をしない旨を告げた。
(6) 上告人は,平成14年1月23日の総会において,同年4月1日限りその事業の全部をA信用農業協同組合連合会等に譲り渡して解散することを決議し,同年3月31日,全従業員を解雇した。
2 本件は,被上告人らが,本件選択定年制により退職したものと取り扱われるべきであると主張して,上告人との間において,本件要項の定める金額の各割増退職金債権を有することの確認を求めているものである。
3 原審は,上記事実関係の下において次のとおり判断し,被上告人らの請求をいずれも認容すべきものとした。
(1) 上告人は,従業員がした本件選択定年制による退職の申出に対して承認をするかどうかの裁量権を有するが,不承認とすることが従業員の退職の自由に対する制限となることなどからすれば,上記裁量権の行使は,本件選択定年制の趣旨目的に沿った合理的なものでなければならず,上告人が不合理な裁量権の行使により不承認とした場合には,申出のとおり本件選択定年制による退職の効果が生ずるとするのが相当である。
(2) 被上告人らのした本件選択定年制による退職の申出に対して上告人が不承認としたのは,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になり,信用不安が発生する事態を防ぐためである。しかしながら,不承認とされることにより被上告人らの受ける不利益は,受忍し得る程度のものとはいい難く,また,上記のような従業員個々の具体的事情にかかわらない事由に基づいて不承認とするのは理由が不十分であるから,上告人が上記裁量権を合理的に行使したとは認められない。
したがって,被上告人らの上記申出は,これに対し上告人の承認があったのと同様に取り扱うべきであり,被上告人らについて本件選択定年制の適用を受ける退職の効果が生じたこととなる。
kuma
事実確認はここまで。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,本件選択定年制による退職は,従業員がする各個の申出に対し,上告人がそれを承認することによって,所定の日限りの雇用契約の終了や割増退職金債権の発生という効果が生ずるものとされており,上告人がその承認をするかどうかに関し,上告人の就業規則及びこれを受けて定められた本件要項において特段の制限は設けられていないことが明らかである。
もともと,本件選択定年制による退職に伴う割増退職金は,従業員の申出と上告人の承認とを前提に,早期の退職の代償として特別の利益を付与するものであるところ,本件選択定年制による退職の申出に対し承認がされなかったとしても,その申出をした従業員は,上記の特別の利益を付与されることこそないものの,本件選択定年制によらない退職を申し出るなどすることは何ら妨げられていないのであり,その退職の自由を制限されるものではない。
したがって,従業員がした本件選択定年制による退職の申出に対して上告人が承認をしなければ,割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はない。
なお,前記事実関係によれば,上告人が,本件選択定年制による退職の申出に対し,被上告人らがしたものを含め,すべて承認をしないこととしたのは,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に,事業を譲渡
する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐためであったというのであるから,その理由が不十分であるというべきものではない。
そうすると,本件選択定年制による退職の申出に対する承認がされなかった被上告人らについて,上記退職の効果が生ずるものではないこととなる。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人らの請求は理由がないから,第1審判決を取り消してこれをいずれも棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
キーワード
定年退職。割増賃金。選択定年制。
kuma





