最高裁第三小法廷 昭和43年(1968年) 3月12日

本記事の参照:裁判所ウェブサイト https://www.courts.go.jp/

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主文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理由

 上告代理人高木定蔵、同山下昭平、同中山善作の上告理由第一点ないし第三点に
ついて。

 国家公務員等退職手当法(以下「退職手当法」という。)に基づき支給される一般の退職手当は、
同法所定の国家公務員または公社の職員(以下「国家公務員等」という。)が退職した場合に、
その勤続を報償する趣旨で支給されるものであつて、
必ずしもその経済的性格給与の後払の趣旨のみを有するものではないと解されるが、
退職者に対してこれを支給するかどうか
また、その支給額その他の支給条件すべて法定されていて国または公社に裁量の余地がなく
退職した国家公務員等に同法八条に定める欠格事由のないかぎり
法定の基準に従つて一律に支給しなければならない性質のものであるから、
その法律上の性質は労働基準法一一条にいう「労働の対償」としての賃金に該当し、
したがつて、退職者に対する支払については、その性質の許すかぎり、
法二四条一項本文の規定が適用ないし準用されるものと解するのが相当である。

 ところで、退職手当法による退職手当の給付を受ける権利については、
その譲渡を禁止する規定がないから、
退職者またはその予定者が右退職手当の給付を受ける権利を他に譲渡した場合
譲渡自体を無効と解すべき根拠はないけれども、
労働基準法二四条一項が「賃金は直接労働者に支払わなければならない。」旨を定めて、
使用者たる貸金支払義務者に対し罰則をもつてその履行を強制している趣旨に徴すれば、
労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、
その支払についてはなお同条が適用され、
使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、
したがつて、右賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは
許されないものと解するのが相当である。

そして、退職手当法による退職手当もまた右にいう賃金に該当し、
右の直接払の原則の適用があると解する以上、
退職手当の支給前にその受給権が他に適法に譲渡された場合においても、
国または公社はなお退職者に直接これを支払わなければならず
したがつて、その譲受人から国または公社に対し
その支払を求めることは許されないといわなければならない。

したがつて、本件退職手当金の支払については、
労働基準法二四条一項本文の規定が適用される結果、
上告人において、訴外Dの被上告人に対する退職手当の受給権を譲り受けたとしても
被上告人に対し直接その支払を求めることは許されないとした
原審の判断は、結論において正当である。

 なお、法令の解釈、適用の根拠、理由の説明は必ずしも判決に示す必要はなく、
これを欠いたからといつて所論のように理由不備ないし
理由齟齬の違法があるとはいえない。

 したがつて、原判決には論旨指摘の違法はないことに帰するから、
論旨はすべて排斥を免れない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。

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キーワード

退職金。退職手当。賃金債権の譲渡。賃金直接払の原則。

kuma