最高裁第三小法廷 昭和50年(1975年) 4月25日

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主文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理由

kuma

文中の下線(アンダーライン)は、
判決文に下線が引いてある部分です。

 上告代理人福岡福一の上告理由について。

一 本件は、水門の製作、請負工事等を業とする株式会社である被上告会社が、
当時その従業員で、かつ、D労働組合総同盟E製作所労働組合(以下「組合」という。)
の組合員であつた別紙選定者目録記載の八〇名及びその余の上告人ら
(以下「上告人ら」という。)を含む組合員全員に対し、
賃上げ要求に関連して昭和三四年六月二日にロツクアウトを通告し、
同年七月六日までこれを継続して同人らの就労を拒否した間の
上告人らの賃金請求権の存否が争われている事件であるが、
所論は、要するに、右ロツクアウトを正当と認めた原判決は、
法律の解釈適用を誤つたものであり、
また、審理不尽、判断遺脱、理由不備の違法をおかすものである、
というのである。

二 憲法二八条、労働組合法その他の労働法令は、
労働関係の内容が使用者と労働者との団体交渉を通じて自主的に決定、形成されることを期待し、
右の団体交渉の場における当事者の交渉力の対等化をはかるために、
一般に使用者に対して社会的経済的に劣位にあると認められる労働者に対し、
明文をもつて争議権を保障しているが、
これに対応する使用者の争議権については、
なんらこれを規定するところがない。

しかし、このことから直ちに、使用者は一切争議権を有せず、
労働争議の場においてそのとりうる措置は
、
個別的労働契約関係その他の一般市民法(以下「一般市民法」という。)
上許される行為に限られるとするのが法の趣旨であると解することは相当でなく、
使用者もまた争議権を有するかどうか、
又はどの範囲において争議権を有するかは、
争議行為の意義と性質、及びこれを争議権として認めた
法の趣旨、目的に照らしてこれを決しなければならない
。

思うに、争議行為は、主として団体交渉における自己の主張の貫徹のために、
現存する一般市民法による法的拘束を離れた立場において、
就労の拒否等の手段によつて相手方に圧力を加える行為であり、
法による争議権の承認は、集団的な労使関係の場におけるこのような行動の法的正当性を是認したもの、
換言すれば、労働争議の場合においては一定の範囲において一般市民法上は義務違反とされるような行為をも、
そのような効果を伴うことなく、
することができることを認めたものにほかならず(労働組合法八条参照)、
憲法二八条や労働法令がこのような争議権の承認を専ら労働者のそれの保障の形で明文化したのは、
労働者のとりうる圧力行使手段が一般市民法によつて大きく制約され、
使用者に対して著しく不利な立場にあることから解放する必要が特に大きいためであると考えられるのである。

このように、争議権を認めた法の趣旨が争議行為の一般市民法による制約からの解放にあり、
労働者の争議権について特に明文化した理由が専らこれによる労使対等の促進と確保の必要に出たもので、
窮極的には公平の原則に立脚するものであるとすれば、
力関係において優位に立つ使用者に対して、
一般的に労働者に対すると同様な意味において争議権を認めるべき理由はなく、
また、その必要もないけれども、そうであるからといつて、
使用者に対し一切争議権を否定し、
使用者は労働争議に際し一般市民法による制約の下において
することのできる対抗措置をとりうるにすぎないとすることは相当でなく、
個々の具体的な労働争議の場において、
労働者側の争議行為によりかえつて労使間の勢力の均衡が破れ、
使用者側が著しく不利な圧力を受けることになるような場合には、
衡平の原則に照らし、使用者側においてこのような圧力を阻止し、
労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を認められるかぎりにおいては、
使用者の争議行為も正当なものとして是認されると解すべきである。

労働者の提供する労務の受領を集団的に拒否するいわゆるロツクアウト(作業所閉鎖)は、
使用者の争議行為の一態様として行われるものであるから、
それが正当な争議行為として是認されるかどうか、
換言すれば、使用者が一般市民法による制約から離れて
右のような労務の受領拒否をすることができるかどうかも、右に述べたところに従い、
個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過、組合側の争議行為の態様、

それによつて使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、
衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として
相当と認められるかどうかによつてこれを決すべく
、
このような相当性を認めうる場合には、使用者は、正当な争議行為をしたものとして、
右ロツクアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務を
まぬかれるもの
といわなければならない。

三 ところで、本件ロツクアウトに至るまでの経過等として原審の認定するところ
は、おおむね次のとおりである。

 (一) 被上告会社は、当時その従業員は約一四〇名で、その職制を総務、営業、資材、技術、工務の五部に分ち、
工務部の現場としては、機械、仕上(組立)、製缶、木工の四工場と倉庫等があり、
営業方法としては、いわゆる受注生産を主としていた。

組合は、昭和三三年八月六日に結成され、同年中二回にわたり
合計一か月金三〇〇〇円の賃上げを獲得していたが、
なお、昭和三四年四月当時における従業員の平均賃金は同業他社に比べて低廉であるとし、
組合大会の決定に基づき、同年五月二日の労使協議会において、
被上告会社に対し、一か月金三〇〇〇円の賃上げ要求を申し入れた。

被上告会社は、その平均賃金は同業他社よりむしろ高額であると判断し、
かつ、当時の会社の事業につき先行不安ありと考えていることをも理由として、
五月九日、右要求には一か月金八〇〇円の限度でしか応じられない旨回答した。

その後、同月一三日、一五日、一八日(一九日早朝まで)と団体交渉を重ねたが、
双方その主張を固執して譲らず、妥結に至らなかつたので、
組合は、一九日午前八時三〇分、被上告会社に対し、
要求貫徹のため闘争態勢による実力行使に入る旨の闘争宣言を通告した。

右団体交渉の段階においても、一二日、一五日には組合員らが総務部長ら会社側の交渉委員に対し、
これを取り囲み、罵言を浴せる等して集団的威圧を加え、
また、一六日には五名の組合員が命ぜられた出張を理由もなく拒否するなどのことがあつた。

(二) 闘争宣言後の経過

kuma

(1)~(7)は、
事実確認を整理しています。


 (1) 一九日から二二日にかけて、組合は、昼の休憩時間と始業前とを利用してアジビラや被上告会社ないしその役員を誹謗する文言を記載したビラを、工場、事務室等の窓ガラス、壁等に、所かまわず乱雑に貼りつけ、そのため、保安室の窓はほとんどビラで覆われ、事務室等も外光が著しく減ずる有様となつた。

工務、総務部長や臨時保安係等が右のビラを剥がし、あるいはビラ貼りの情況を写真にとろうとすると、組合員が、これを包囲して罵倒、威嚇し、あるいはその前に立ち塞がる等して妨害した。

 (2) 二〇日、二一日には、組合員は、事務所内で喚声をあげてデモ行進をしたり、執務中の常務等を取り囲んで労働歌を高唱する等して、役員、職員の執務を妨害した。

 (3) 二〇日から二二日まで、組合幹部は、携帯拡声器二基を用いて、就業時間休憩時間を区別せず、被上告会社やその役員を誹謗する等の内容の放送をした。

 (4) 一九日から二一日まで、終業後、二〇名前後の組合員は、無届で翌朝まで会社構内に残留し、たびたびの退去要求にも応じなかつた。

 (5) 二二日頃から、製缶工場を中心として怠業状態があらわれはじめ、それは日を追つて著しくなり、二七日頃の各工場における作業能率は平均して少なくとも平時の半分程度に低下し、その状態は五月末頃に至るも一向改善されず、却つて悪化の傾向もないではなかつた。

その間において、会社側がその防止のために職制による巡視を強化したところ、組合員らは後をつけまわつて暴言を吐く等してこれを妨害し、二三日には、巡視中の工務部長に対して製缶工が鉄板やハンマーを投げつけ、同行の保安係員が同部長を囲んで気勢をあげる組合員に押し倒されて治療約三日間を要する打僕傷を負うという事態も生じた。

 (6) 被上告会社は、その業務の性質上契約上の義務として負担する現地における納入製品の据付、試運転等の業務のため、一九日、二〇日、二五日にわたり、九名の組合員に対して出張を命じたが、同人らは、「一か月前に出張したばかりだから」等の理由で、いずれもこれに応じなかつた。会社は、これらの作業を下請会社に依頼せざるをえなくなつた。

 (7) 六月一日には、工務部の四工場及び倉庫係の正副班長たる組合員八名中木工工場の班長一名を除く七名が一斉に休暇をとつたため、これら各工場の作業過程が麻痺し、正常な作業が不能に陥り、他方、現場各作業所入口で少年工を見張らせて会社側の行動を監視させ、全員ほとんど作業に従事せず、終日怠業状態が続き、会社職制の巡視に対してはこれを妨害する等、職場の秩序は極度に混乱した。

kuma

事実確認の整理終了。

 (三) このようにして、被上告会社は、前記のような組合の争議行為等により、
作業能率が著しく低下し、正常な業務の遂行が困難となつたので、
このままの状態では会社の経営にも危殆を招く虞があると考え、
六月二日組合員に対してロツクアウトを通告した。

 (四) 右ロツクアウトは七月六日まで継続されたが、
この間組合は会社のロツクアウトの宣言の不当であることを主張するのみで、
争議の状況は何ら改善されることがなかつた
。

 そして、原審は、右の事実によると、組合は被上告会社との団体交渉の中途において、
組合側の賃上げ要求貫徹のため、
より強力な手段に訴えるべく前記闘争宣言を発して争議行為に入つたのであるが、
その争議行為は暴力行為を伴う相当熾烈なものであつて、
漸次怠業状態が深刻化し、さらに出張拒否や正副班長の一斉休暇という部分ストにも発展し、
これら一連の争議行為によつて被上告会社の正常な業務の遂行が著しく阻害され、
作業能率も低下して、このままで経過するときは
被上告会社(資本金一四〇〇万円程度の中小企業)の
経営にも支障をきたす虞が生じたので、
被上告会社としては、このような事態に対処するため組合の争議行為に対抗して一時的に作業所を閉鎖し、
前記のような組合員の不完全な労務の提供の受領を拒否し、
その結果としての賃金の支払を免れることによつて当面の著しい損害の発生を阻止しようとしたものである、
としている。

原審の右認定判断は、
原判決挙示の証拠に照らし、
すべて正当として首肯することができ、
その過程に所論の違法はない。

四 前記二のような見地からすれば、
前記三のような具体的事情のもとにおいてされた本件ロツクアウトは、
衡平の見地からみて、
労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当であると認めることができる。

原判決は、前記二と異なる見地に立つものではあるけれども、
本件ロツクアウトを正当と認め、
被上告会社はその間の賃金支払義務を負わないとしたその結論は、正当である。

したがつて、論旨は採用することができない。

五 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。

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キーワード

ロックアウト。作業所閉鎖。賃金支払義務。正当な争議行為。

kuma